ネットの海を漂っていると、道北にある美深チョウザメ館が緊急事態宣言の影響で閉館中であることを知りました。
美深町の道の駅の傍らにひっそりと佇み、無料で入館できる小さな水族館のような場所なのですが、公共施設とはいえあんな小規模なところまで閉鎖せざるを得ないとは、世知辛い世の中になったものです。
この美深チョウザメ館には、一昨年に稚内からオホーツク海沿岸を車で旅行した折に、途中寄り道で立ち寄ったことがあります。
チョウザメ館という名称を冠しているものの、実は天塩川に生息する魚類も展示しており、もちろんイトウも飼育されています。
天塩川へイトウを釣りに行った帰り道に立ち寄って、釣れずに萎れた心を慰めてみるのも良いかもしれませんね。
美深チョウザメ館
美深チョウザメ館は、北海道美深町の森林公園ひぶかアイランドの敷地内に、道の駅やキャンプ場とともにひっそりと建っている特徴的な建物です。
入館料はかからず、誰でも自由に入館することができます。
この近くを流れる天塩川では、過去にチョウザメが生息していたようで、剥製や生体を展示が展示されているのです。
無料とはいえその展示内容は侮れず、かなりクオリティの高いものとなっています。
館内には数多くの水槽があり、さまざまな大きさのチョウザメが泳いでいます。
また、関連して天塩川に生息する魚類の生態展示もあり、小規模ながら凝ったアクアリウムが構成されているため、結構楽しむことができるました。
もちろんイトウもいます。
水族館にいるイトウというと頭や体形が丸くなり、顔が潰れてしまっているような個体がいることもあるのですが、このチョウザメ館で展示されているイトウたちは体色が鮮やかかつ体形もスマートで、とても綺麗な魚でした。
ちなみに、ほとんどの水槽には青いネットが掛けられていますが、昔は上から覗き込んで観察することもできたようです。
魚が飛び出して死亡するのを防ぐ意味合いもあるのでしょうが、私は過去に面白半分で水槽に手を突っ込んだ悪い人がいたのではないかと勝手に疑っています。
北海道のチョウザメたち
チョウザメの英名は「sturgeon」です。
なんだかかっこいい響きの名前ですね。
スタージオンというと、テレビで村田基さんがカナダへ行って釣っていた魚という印象があります。
いかにものんびりとしていそうな見た目にそぐわず、派手なジャンプを繰り返していました。
なお、サメという名前がついていますが、軟骨魚類のサメとは異なり、立派な硬骨魚類の仲間です。
しかし、硬骨魚類のなかではかなり古い系統であり、原始的な種類といえます。
北海道では、明治時代まで石狩川や天塩川などの大規模河川に、チョウザメが遡上してきていたようです。
天塩川にも大正末期から昭和初期まではチョウザメがいたようですが、いまでは絶滅しています。
そのような経緯があって、美深町のカントリーサインにはチョウザメが採用されており、町の施設としてチョウザメ館が造られたというわけなのです。
天塩川に生息していたのはミカドチョウザメという種類だったようで、チョウザメ館に入ってすぐに大きな剥製が展示されており、その大きさに驚かされました。
イトウも1メートルを越える魚ですが、それよりもさらに大きな魚が、ほんの八十年前まで北海道の川に遡上してきていたとは、昔の自然はどれほど豊かだったことでしょう。
羅臼沖などでは、ロシア沿岸から来たチョウザメがごく稀に定置網で獲れるそうです。
ただ、過去数十年に河川遡上した記録が報告されていないということは、サケ科魚類のように母川回帰の性質があったのかもしれません。
実はチョウザメって食べられる
さて、美深町では過去にチョウザメが生息していた経緯から、現在は地域振興の一環として食用チョウザメの養殖事業に取り組んでいます。
森林公園ひぶかアイランドにあるびふか温泉では、併設された食堂でチョウザメ料理を味わうことができるのです。
私はここでチョウザメの天丼をいただきました。
淡泊な白身で、天ぷらの材料としては優秀だったと思います。
北海道のミカドチョウザメとイトウの将来
北海道のチョウザメが絶滅した理由は明らかにされていませんが、乱獲や河畔林の減少、河川環境の悪化などが原因とされています。
しかし、絶滅の危機にあるとはいえイトウが現在でも生き残り、チョウザメは絶滅してしまった違いは何だったのでしょうか。
どちらも同じように海と川を行き来する生態をもち、大型の魚で成長や成熟には時間がかかるという共通点があります。
しかし、私はチョウザメがイトウよりもはるかに大きく成長し、寿命も長く成熟年齢も高いことが原因だったのではないかと思います。
魚類は寿命が長く成長が遅い種類ほど、漁獲による影響で資源量の減少を招きやすいです。
イトウは体長1メートルに成長するのに15年かかるとされますが、チョウザメは最大体長2メートル以上、最高年齢が153歳で、成熟には数十年を要するなどという話さえあります。
これだけ大きな差があるのですから、一度個体数が減少してしまえば、再生産に深刻な支障をきたすのも十分に肯けるでしょう。
イトウもサケ科魚類の中では古い系統の種ですが、硬骨魚類全体でみてもかなり原始的な種であるチョウザメは、近代の急激な環境の変化にも弱かった可能性があります。
また、大きさだけでなく身の味も重要だったのかもしれません。
チョウザメというとキャビアの印象が強いですが、実は肉も美味しいのです。
大きいうえに肉の味が良く、雌からはキャビアも獲れるとあっては、恰好の食料源として乱獲されてしまったのでしょうか。
一方で、イトウはあまり美味しいという話は聞かないですからね。
今年の夏は、猿払川の渇水によるイトウの大量斃死がニュースの話題にのぼりました。
日本で絶滅してしまったミカドチョウザメは、現在はロシア沿岸の一部などで細々と命を繋いでいます。
将来、日本のイトウもそのような状態にならないことを願うばかりです。