神の企てか、悪魔の意思か。

先日、職場の休憩室に行くと、衛星放送でサケ科魚類の映像が流れているのが目に入りました。どうやら、米国のニュース番組の取材のようです。

そこで普段テレビ番組には全く興味がない私も、内容が気になったので、近づいて観てみることにしたのです。

 

番組のテーマは、ニジマスだかアトランティックサーモンだかの養殖の是非についてでした。

水産増殖においては、魚の育成に大量の水を必要としますし、餌や糞で汚れた廃水の放出など、環境への影響も心配されるところです。そこまでは誰でも容易に理解できます。

ただ、水産増殖の元祖はサケ科魚類といっても過言ではないくらいの歴史があり、いまさら取り沙汰されるようなものでもありません。

しかし、どうやらこのサーモンは尋常ではない。

番組の内容を見る限り、遺伝子を操作した魚のようです。

植物においては、既に遺伝子組み換え農作物がすっかり市場へ浸透してしまっており、日常の中で多くの人が知らずに口にしていると思います。

もはや、家畜の餌やコーンスターチの原料である輸入トウモロコシなどでは、当たり前のようになっているのだとか。

 

そして近年、そういった技術がついに食用魚にも伸びてきたというわけです。

具体的には、通常よりも大きく育つようにしたり、過密状態で飼育しても病気になりにくくすることができます。

また、外部からの遺伝子を導入しない「ゲノム編集」という技術では、我が国でも肉厚にされたマダイやトラフグの養殖がすでに実用化されています。

京都大学広報誌『紅萠』

ゲノム上の特定の遺伝子を改変し、その働き方を変えるゲノム編集。コンピュータの文字データの挿入・削除と同じように遺伝子を編…

 

アメリカでは、このようなニューサーモンが野外に逸出した事例はないそうですが、アラスカで漁業に従事している先住民たちからは、かなり強い反対運動を受けているといいます。

彼らをインタビューした映像では、「自然は神が創造したものであり、そのままの姿で完璧だ。それを人間が作り変えるのは神への冒涜だ。」と語られていました。

これはいかにも欧米的な発想であり、個人的にはとても興味深い考えだと思います。

また面白いことに、資本主義の権化とでもいうべきアメリカの大手小売企業は、世論に配慮してそのほとんどがこの魚を流通させていないとのこと。

しかし、世界で増え続ける水産需要を支えているのが養殖魚であることも紛れもない事実です。

まあ、かの国では国家や政府の動きの速さや実行力が日本の行政とは比較にならないでしょうから、野生魚類への影響対策との両立などは、FDAと合衆国魚類野生生物局あたりが上手く調整することになるのですかね。

 

ただ、先述のアラスカ先住民の言葉ではありませんが、私は人間が生産した生き物というのは、どこか歪である気がします。魚類に限ってみても、養殖魚と天然魚は外見が違っていますし、管理釣り場にいるトラウトの頭や鰭などはその顕著な例といえましょう。

それに対して、例えば奥地の清流で育ったアマゴやヤマメには、思わず息を飲む繊細な美しさがあるというものです。

釣って嬉しいのはどちらかと聞かれれば、私の答えはいうまでもありません。

肉厚なマダイや肥ったトラフグも同じです。多少なりとも身が少なくても、自然の中で育った綺麗な色と魚体をした天然魚のほうが、美味しそうに見えるのではないでしょうか。

でも加工して出荷されてしまえば、元の魚の姿は分からないので、食べる側は気にならなくなります。

そんなわけで近い将来、主に外食産業や加工食品では、このような新しいタイプの水産物が普及すると思います。

さて、その時あなたはこれらの魚を食べたいと思いますか?