今年も大学院入試の季節が近づいてきました。
大学院進学を目指す方の中には、進学先の選択に悩まれている方も多いと思います。
特に、現在の専攻から他大学・他分野への進学を考えている場合は尚更でしょう。
私も以前に同じことで悩んだ経験があります。
私は私大の教育系学部から、地方国立大学の他分野(理系)の大学院へ進学しました。
もう何年も前になりますが、暑い夏の朝にスーツを着て飛行機に乗り、院試を受けに行った日が懐かしくもあります。
ここでは、私自身の経験と失敗を記すことが、読者諸氏に僅かばかりでもお役に立てばと思います。
他人の失敗談と思って、笑ってご一読くだされば、望外の喜びです。
要約
②指導教員と信頼関係を築く。
③開放的な雰囲気の研究室を選ぶ。
④逆境でも絶対に諦めない。
⑤最後に伝えたいこと「何のために勉強するのか」。
①研究テーマに固執しない。
まず第一にお伝えしたいのは、研究テーマにこだわり過ぎないということです。
せっかく大学院に進学するのに何故?と思う方もいるかもしれません。
しかし、冷静になって考えてみてください。
あなたの最終目標はなんでしょうか。
それは、将来研究職に就いて、自分のやりたい研究をするためであるはずです。
大学院はそのための過程に過ぎません。
自身の関心のある分野と関連さえあれば、極端に言えばどのような研究良いですので、まずは基礎的な方法論やスキル・ノウハウを習得することを優先してください。
それは、後に別の研究に取り組む場合でも十分に応用が効くでしょう。
具体的な例をあげるならば、私は生物系の研究をしていたのですが、特定の分類群の生物を研究することに強いこだわりがあり、それが原因で失敗をしてしまいました。
結局、希望する生物を研究テーマにできたものの、それはすでに概ね研究され尽くしたやり残し部分であり、別の生物種をテーマとして生活史全般を解明できるチャンスを捨ててしまった結果、この基礎的なスキルやノウハウを学ぶ機会を逃したのです。
一方で、私の学部時代の恩師は水産学の博士号を取得していましたが、大学教員になってからは趣味の昆虫の研究ばかりをされていて、結果その分野の第一人者となっていました。
これから研究テーマを選定する方は、このことをぜひ念頭においてほしいのです。
本当にやりたい研究は、自分が一人前の研究者になってから取り組めば良いのですから。
②指導教員と信頼関係を築く。
当たり前のことですが、これは非常に大切なことなのです。
アカデミアの世界は、世間で思われているよりもずっと閉鎖的です。
学術界で生き残るのに必要なのは、個人の実力と人脈であると、私は思っています。
数少ないポストを争奪し合う研究職の就職戦線において、指導教員の推薦や口利きは重要になってきますし、ポスドクとして研究室に残らせてもらう場合にも影響してきます。
また、いずれどこかのポストに空きが出たとしても、全く知らない人材を採用するよりは、人脈を持っていて何かしらのツテがある人のほうが優遇されるでしょう。
一般公募すら出ない求人もあります。
残念ながら、当時の私はこの当たり前で非常に大切なことができませんでした。
いつかの午後、当時の指導教員が言い放った、「あなたが何を考えいるのか分からないし、きっと何も考えていないんだと思う。」という言葉は、今も私の中で強く印象に残っています。
そんなこともあり、私の成績は修士研究以外の授業科目はすべて「S」評価でしたが、修士研究だけ一段階低い「A」評価でした。
まあ、普通にやっていれば、まずこんなことにはならないと思いますが。
今となっては笑い話にできるものの、当時は全然笑えませんでした。
③開放的な雰囲気の研究室を選ぶ。
研究室の雰囲気のギャップも、私が悩んだ点のひとつです。
大学教授というのは、予算の獲得など経営者的側面もありますので、研究室にはその人物の色が出ます。
これは個人経営の企業と似たようなところがあるかもしれません。
さらに、組織風土というのは一朝一夕で形成されるものではなく、代々受け継がれている傾向が強いでしょう。
研究室が変わると、同じ試薬の作り方さえ全く違って、戸惑ったくらいです。
私の学部生時代の所属研究室は、私立であったこともあり、同期の人数が多く、和気藹々とした雰囲気でした。
また、指導教員が若い先生でしたので、学生との距離感が近く、学生含めて文字通り同じ釜の飯を食った仲でした。
一方で、進学した研究室は少数精鋭を重視し、同じ研究室といえどもライバル同士で、手の内を明かしたがらない風土だったと思います。
私は当初、進学先の研究室のいろはが何も分からない状態でしたが、ポスドクからは「そうゆうのは人に聞かないで自分でやることだから」と言われました。
教授やその先輩は本当に優秀な方だったので、実際にそのようにされてきたのだと思いますが、外部進学組や他分野からの転向者には、結構厳しい面があります。
したがって、研究室訪問の際には、所属している学生達の雰囲気もよく観察してみると良いでしょう。
訪問してきた外部の学生の前で、教授が所属学生を怒鳴りつけたりするような研究室は避けたほうが無難だと思います。
(受験はしませんでしたが、某大学の研究室訪問で私が実際に経験した話です)
もし、あなたがいま在籍している研究室が、ある程度の学術的レベルを満たしていて、あなたの興味のある研究に取り組めるのであれば、本当に外部進学のリスクを取る必要性があるのか、一考する価値はあるのではないでしょうか。
教授や研究室の選び方については、幸いにも現在では優良な書籍が出版されているようです。
まだ読んでいない方はぜひ一度読んでみるとよいかもしれません。
④逆境でも絶対に諦めない。
大学院生は研究者の卵です。
科学技術立国日本の将来を担う、貴重な人材です。
ただ残念ながら、努力が必ず報われるほど、この世界は優しくはないのです。
現在、研究者として第一線で活躍されている方でも、その多くは最初の就職で希望が叶ったわけではなく、さまざまな場所を渡り歩いてきています。
学部生の頃の恩師の後輩だった博士号取得者が、給料日一週間前で現金が50円しかないので、その辺に生えている草を煮て食った、なんて話も本人の口から耳にしたことがあります。
逆境においても、自分自身を信じて諦めない、強い心と意志が必要です。
最終的に、私はあれほど好きだったはずの研究が嫌になり、志半ばで道を諦め、専攻とは何の関係もない現在の会社に就職をしました。
自然や生き物が好きだったのに、毎日フードロスを出し、化石燃料を消費して温室効果ガスを排出し、騒音を撒き散らし、時には生き物に直接被害を与えることもあるような事業の一端を担ってお金をもらっています。
しかし、現代社会で生きる人間は、規模の大小は違えど、普段の生活をしているだけで無意識に自然へ悪影響を与えているわけなので、自分が不幸だとは思いませんし、釣りという新しい趣味に出会うこともできました。
もう無理だと限界を感じたら、きっぱりと夢を諦めるも良し。
もし、それでも諦めきれなければ、社会人として自由とお金を手に入れてから、再挑戦をするのもまた良しです。
あなたの人生の責任を取れるのは、あなただけなのですから。
⑤最後に伝えたいこと「何のために勉強するのか」。
大学院へ進学するくらいですから、みなさんは研究や勉強がお好きなのだと思います。
そこで最後に、私の大学(学部生)の卒業式で、学部長の教授から贈られた言葉を記します。
何のために勉強するのか。
それは「幸せになるため」です。
皆さん一生懸命勉強したんです。
だから幸せになってください。
みなさんは何のために勉強しますか?
いずれにせよ、
お互い後悔のない人生を生きましょう。
みなさんの進まれる道が秋晴れの空のように澄み渡り、希望に満ちていることを願っています。
院試、がんばってください。