季節は移ろい標高の高い地域でも夏の訪れが感じられるようになりました。
我が家では家族で使用している山の別荘があり、それぞれが週末田舎暮らしを楽しんだり、家族全員で集まったりするのに活用しています。
その近くで父が趣味の家庭菜園を営んでおり、私も日程が合えば苗の植え付けや収穫を手伝うことがあります。
この家庭菜園、休耕地の一角を地元の農家から借り受けて、付近の別荘地の住民が複数で菜園をやっているのですが、毎年夏にはちょっとしたカエルの小王国と化します。
イモの葉の下にはトノサマガエル、育ちすぎたインゲンの茂みにはアマガエルが群れていて、畝を歩くたびに足元でぴょんぴょん飛び跳ねているといった具合です。
この菜園の隣はスプリンクラーの散水装置を有したセロリ畑、道路を挟んで向かい側が田んぼと用水路という立地であるため、カエルにとっては居心地の良い環境なのだと推測されます。
それだけでなく、菜園の周囲にはイネ科植物を中心とした雑草も多く繁茂しているので、カエルの餌生物となるバッタやコオロギも多く見られます。
また、多くの菜園は農薬を使用していないので、アブラムシやモンシロチョウの幼虫のような害虫もある程度野放し状態であり、餌には困らないのでしょう。
そんな様子を見ているうちに、里地里山の荒廃が叫ばれて久しい現代において、この家庭菜園は数少ない生き物の棲み処となっているのではないかと思いました。
家庭菜園の特徴
家庭菜園は専業農家の畑とは異なる点がいくつかあります。
まず、専業農家の畑は大規模で単一の作物を栽培しているのに対して、家庭菜園は小規模で様々な作物が植えられていることが多いでしょう。
特に我が家の畑のように休耕地を大人数で利用している菜園では、個々人が思い思いに好みの作物を植えるため多様性が高くなる傾向があるのではないでしょうか。
次に農薬など有害な化学物質の使用が控えられている点も、生物にとって好条件なのだと考えられます。
専業農家は収穫物を売って生計を立てていますので、害虫の発生は死活問題となり、農薬や除草剤の使用は一般的であるといえましょう。
一方で農業を生業としているわけではなく、店で野菜を買うのでもなくわざわざ手間暇かけて趣味で菜園をやろうというのに、自分の畑に農薬をぶちまけるような人は少ないはずです(中には例外もあるでしょうが)。
また、これは完全に偏見ではあるのですが、山の別荘地のような地域で家庭菜園をやる人は比較的裕福であり、無農薬やオーガニック指向が強い傾向にあると思います。
以上のことから、家庭菜園は化学物質による植物や土壌の汚染が比較的少なく、生き物には多少は優しいのかもしれません。
ちなみに我が家の畑では、植え付けの際に最低限の化学肥料を使用しています。
カエル類は環境指標生物
カエル類は食物網では高次捕食者である爬虫類や鳥類の餌生物となると同時に、昆虫類を捕食している消費者でもあります。
つまり「食う・食われる」の生態系ピラミッドの中で、自身が他の生物を食べる一方で他の生物の餌にもなるという、ちょうど中間に位置していることになります。
カエル類のように階層の中間に位置する生物が沢山生息しているということは、高次捕食者である爬虫類や鳥類と低次捕食者である昆虫類がどちらも生息できる環境であるということを示しています。
また、カエル類は幼生であるオタマジャクシの時期は水中で成長し、成体になると陸上へ移動して生活の場を移すため、両方の環境が良好に保たれていなければ生きることができません。
このように環境の条件や状態を推測する指標となる生き物は、「環境指標生物」と呼ばれる重要なものです。
一方で我が家の菜園のケースでは、農地の中に孤立している小さな家庭菜園に生き残った個体が集中している可能性も考えられ、手放しで喜べる状況ではないのではないかと思います。
野放しの菜園は必ずしも是ではない
しかしながら、このような家庭菜園が必ずしも是であるかというと、そうとは言い切れないと思います。
農薬や除草剤を使用しないことにより害虫を発生させて、周辺の専業農家に迷惑をかけるわけにはいきませんし、家庭菜園をやっている人のなかにも自分の作物を害虫に荒らされたくない人はいるでしょうから。
稀に専業農家の間でもトラブルになることがあると聞いたことがありますので、よそ者が趣味で勝手にやっている家庭菜園など論外です。
すべてにおいて生き物が優先される優しい世界であったなら良いのですが、人間の都合上それが許されない場合も多いでしょう。
しかしながら、このような家庭菜園が現代において生き物に貴重な生息場所を提供していることは確かであると思います。
生き物の中には古くから人間の生活や農業と関係が深く、人間の作り出した「半自然」の環境に適応して生き残ってきた種も多くいます。
個人的には身近な生き物に興味関心をもってくれる人が少しでも増えて、生き物に優しい環境が増えることを願ってやみません。
まずは生き物の名前を覚えることから始めてはどうでしょうか。
名前も知らない生き物が絶滅しても、その人にとってはもともと存在していなかったのと同じなのですから。