5th diebus ShumarinaiⅡ

朱鞠内湖の朝は早い。

身支度を整えて湖岸の漁協へ降りて行くと、既に数人の釣り人達が集まっていた。

漁協で渡船の希望場所を聞かれるも、Mさんに選定を任せるつもりだったのでその旨を伝える。

「え、Mさん来てるんですか?!」

やはり有名人のようだ。無理もない。

この湖にはMさんがあまりにもたくさんのイトウを釣り過ぎて、その名を冠したポイントがあるくらいなのだから。

やがて湖畔のキャンプ場で車中泊をしていたMさんが現れ、おもむろに漁協の事務所で会話を始める。

どうやら、あるポイントについて話していたようだった。

 

Matsuoさんは「勘弁して下さいよ。僕が休みの日に行ってください。」

と苦笑いをして言っていた。

何か行きたくない訳でもあるのだろうか。

その理由は後日明らかになる。

結局、この日は菅原島という場所へ渡ることに決まった。

 

 

午前九時。例年通り重役出勤のFさんが特別チャーター便で合流する。

菅原島は北大島と似たような様相を呈した場所だった。

広大な土と礫の浜にところどころ大きな切株が見え隠れしている。

印象的だったのは、小さな岬の様な地形に立木が何本も点在した浅瀬が広がっていた場所だ。

ここでは、Mさんが五十センチ前後のイトウを釣っていた。

しかし、本人曰くこの日の状況はいまいちだったようだ。

いつもは立木の際にルアーを通せば大きいのが喰ってくるのだが・・・、とぼやいた。

今でもMさんはこのポイントがお気に入りで毎年攻めているものと思われる。

 

午後になってからは向かい風が吹き続き、湖面が波立って岸際には黄土色の強い濁りが入っている。

底質である粘土質の泥が波で撹拌され巻き上げられているのだ。

これがいわゆるイトウが釣れるコンディション、であるらしい。

チビアメ

その後、先程の岬とは反対側の残雪が広がる岸で小さなアメマスを一匹釣った。

今回の初めての釣果だ。

 

しかし上陸地点に戻ってみると、Fさんは既に七十二センチを含む四尾を釣ったという。

さらに知らぬ間にMさんも同程度の数を釣っていたようだ。

何とも悔しいものである。

結局、この日の僕は最後までイトウと出逢うことが無いまま迎えの渡船へと乗り込んだ。