イトウがポケモンになる時代。

「ポケットモンスター、略してポケモン。」

こんな謳い文句でゲームソフトが発売され、テレビアニメの放送が開始されたのはいまから二十五年程前のこと。

当時小学校に就学して間もなかった私は、年上の従兄弟と共に祖母の家でアニメを観て、父親から『ポケットモンスター 緑』を買い与えられてからは、同世代の子供達の多くと同じようにポケモンの世界にのめり込んでいったものでした。

それが現在では日本を代表する世界的な人気コンテンツとして成長を遂げ、「ポケモンジェット」亡き後も東京の空港では最近になって再び機体にポケモンの特別塗装をあしらった航空会社を複数見かけます。

空港

その間に大学の同級生がゲームの開発元であるゲームフリーク社の内定を蹴っていたり、大好きなロックバンド・BUMP OF CHICKENが楽曲でコラボレーションをしたり、勤め先が一時期ポケモンをライセンス利用しておりキャラクターのデザイン性の高さや可愛さを再確認するなど、大人になってからも様々な思い入れがあります。

 

今年に入ってからはオープンワールド形式の新作ソフトが発売され、大きな話題となりましたね。

ポケットモンスターオフィシャルサイト

『Pokémon LEGENDS アルセウス』公式サイト。『ポケットモンスター』シリーズ最新作 2022年1月28日(金…

そんなポケモンですが、空想世界の生き物として現実の生物がモデルとされることも多く、水タイプのポケモンに魚類が原案となっている例も見受けられました。

これまでにはキンギョ、コイ、オニイトマキエイ、シーラカンス、テッポウウオ、チョウチンアンコウ、ナマズ、イワシ、ブラックバス、カマスなどがいたと思います。

ところが最新作『Pokémon LEGENDS アルセウス』では、遂にサケ科魚類が登場しました。

 

ポケットモンスターオフィシャルサイト

『Pokémon LEGENDS アルセウス』公式サイト。『ポケットモンスター』シリーズ最新作 2022年1月28日(金…

その名は「イダイトウ」。

なんとイトウがポケモンになる時代がきたのです。

いい加減ネタがなくなったのか、それともポケモンと時代がトラウトフィッシングに追いついたのか。

名前からしてみると、「韋駄天」と「イトウ」を掛けていると思われます。

この「イダイトウ」というポケモンですが、なかなか設定が凝っておりイトウ釣りのファンとしてもちょっと面白いなと思いました。

まず『Pokémon LEGENDS アルセウス』の舞台となる「ヒスイ地方」は、過去作で登場した「シンオウ地方」の遥か昔の地名という設定だそうで、作中の地図の形からそのモデルは北海道と樺太であるとされています。

これは日本産イトウの生息地とほぼ同じですね。

 

次に、「イダイトウ」のポケモン図鑑では以下のような解説がありました。 

遡上の旅路にて 志半ばで 散った 輩の魂を まとう。

ヒスイ 河川においては 敵うもの 皆無なり。

(ポケモン図鑑 https://zukan.pokemon.co.jp/detail/902-1 より抜粋)

 

このようにサケ科魚類が遡上する過酷さや、北海道の河川生態系の頂点に君臨するイトウの生物学的特性を反映したものとなっています。

ポケモンずかん

『ポケットモンスター』シリーズに登場するポケモンの情報を見ることができる、「ポケモンずかん」。…

さらに、オスとメスでデザインが異なる点もよくできていると感じます。

オスの「イダイトウ」は半身にイトウの雄の婚姻色である緋色を纏っているのです。

また、イトウの雄が繁殖期に交尾相手を巡って争うためか、オスの「イダイトウ」は気性が荒そうなのに対して、メスは何とも気の弱そうな顔つきをしていますよね。

 

ただ唯一気になったのが、このポケモンの進化前の姿です。

ポケモンずかん

『ポケットモンスター』シリーズに登場するポケモンの情報を見ることができる、「ポケモンずかん」。…

進化前のポケモン「バスラオ」というのは、その名前やデザインからも容易に想像がつくように、明らかにブラックバスがモデルでしょう。

担当のデザイナーがルアーフィッシング好きでブラックバスを釣っていたのか、そもそも魚類に詳しくなかったのかはわかりませんが、絶滅危惧種のイトウが外来生物のブラックバスから進化するというのは、個人的にはあまりいただけない設定といえます。

まあ、「ニジマスやブラウントラウトから進化します!」と言われるよりはマシなのかもしれません。

ところで、北海道のブラックバスは公式には一応駆除で根絶したとして、撲滅宣言のようなものが出されていませんでしたか?

学生時代に保全生態学をかじっていたため、そんな情報を見聞きした覚えがあるのですが。

 

ちなみに今冬にはポケモンシリーズ完全新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』が発売されるそうです。

ポケットモンスターオフィシャルサイト

『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』公式サイト。『ポケットモンスター』シリーズ完全新作 2022年11月1…

なんでも初代から数えると第九世代になるといいます。

初代ポケモンが世に産み出されてから早二十六年。

時が経つのは本当に早く、そして誰にでも平等に残酷なものです。

いずれにせよ、かつてフシギダネに目を輝かせていた小学生が夢をみては破れ、紆余曲折を経て底辺社畜釣師になるのには、充分過ぎる時間であったということは間違いないのでしょう。

そして自分は何を失い、対価として何を得てきたのか。

はたしてそれは対価として見合うものなのだろうか。

二十五年という歳月は、それを省みてみるのにはちょうど良い区切りなのかもしれませんね。